マーケット部門におけるクオンツの役割
主に就活生に向けて
クオンツが使うモデルの話を書いているブログはいくつかあるものの、クオンツが証券会社の市場部門で何のためにモデル開発をしているのか、クオンツの役割とその目的が書かれているものはまず存在しない。 ブログの執筆者が、
- 当たり前のこととして説明していない
- なんとなくわかっているけど、言語化できていない
- そもそも理解していない
のいずれなのかは分からないが、クオンツについて知りたいブログの読者としては、クオンツの役割が分からなければ、ブログの記事の真意を理解することは難しいであろう。就活生等業界を知りたい人に向けて、あくまで個人の意見として、簡単に記述する。
証券会社市場部門のビジネスモデル
証券会社の市場部門は金融商品の小売りだと思えばよい。 市場で取引されている商品や、市場にはないものの市場にある商品から上手く組成した商品を顧客に販売する際に手数料をとる。 この手数料の決め方は様々であるが、例えば取引額に一定の割合を掛けて決めたり、取引が持つリスク量と顧客の信用力によって決めたりする。 市場で取引されている商品は市場で顧客と締結した取引と反対の取引を行えば、手数料がそのまま利益となる。 一方市場になく顧客のために組成した商品の場合は、その商品をヘッジ(価値が等しくなるように原資産で複製し相殺する)しなければない。 ヘッジを行わなければ、顧客に売った商品から損失を被る可能性がある。 顧客から徴収した手数料の範囲内でヘッジを行い、手数料のうち満期まで残っていたものが証券会社の利益となる。 すなわち、手数料からヘッジにかかった費用を引いたものが証券会社の利益となり、ヘッジの巧拙が利益に直結する。
市場にある商品 | 手数料がそのまま利益 |
市場にない商品 | 手数料からヘッジにかかった費用を引いたものが利益 |
ヘッジを行うためには自社が抱えているポジションとそのリスク量を正確に把握しなければならない。また、保持しているリスクを消すために追加の取引を行う場合には、その新たな取引が内包するリスク量も正確に推計している必要がある。そのためには市場の状態を知らなければならず、市場の状態を客観性が確保された数学を用いて扱いたくなる。市場に対して数学を用いる人たちがクオンツと呼ばれる。クオンツが開発した数理モデルに依拠して、ポジション管理やヘッジが行われる。
価格が見えているもの、見えていないもの
金融商品には市場で価格が見えているものと、価格が見えていない(または見えにくい)ものがある。いずれの商品に対しても数理モデルに基づいて時価評価を行うことが出来るものの、数理モデルではボラティリティ等の市場の状態を表すパラメタがあり、パラメタの値は自由に設定できるためパラメタに依存する時価もまた自由である。しかし、ポジション管理やヘッジの観点から、パラメタの値には時価評価を行う時点での市場の状態を反映した値を使いたい。そこで利用されるのが価格が見えている商品である。市場で見えている価格は市場の状態を反映された結果であるから、市場の価格から逆算したパラメタの値は市場の状態を反映している。したがって、市場の価格から数理モデルに基づいた時価評価式によって、数理モデルのパラメタが逆算される。そして、市場の価格から得られたパラメタを使って、価格が見えていない商品を評価する。(データサイエンティストはデータから有益な情報を抜き出し意思決定を行う。クオンツは金融市場に対してデータサイエンスを行っていると言えなくもない。)
ざっくり表
よく知られてるであろう商品とそれから得られる情報を表にした。
商品 | 得られる情報 |
---|---|
金利スワップ | 金利のフォワードレート(イールドカーブ) |
スワップション | 金利ボラの期間構造、金利ボラのスマイル |
リスクリバーサル、バタフライ | 為替ボラの期間構造、為替ボラのスマイル |
CDS | 参照体のハザードレート(ハザードカーブ) |